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【小説】『いけない』道尾秀介_工夫と仕掛けでどれだけ読者を楽しませるか

『いけない』道尾秀介  文藝春秋

オススメ度 ★★★★☆

 

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道尾作品で一番最初に読んだのは、最後のどんでん返しが印象的な『向日葵の咲かない夏』というミステリであった。その後も何作か読んだが、今回紹介する『いけない』は雰囲気的にも『向日葵〜』に似たものを感じた。

 

この本の帯の裏側には下記のような記載がある。

 本書のご使用法

・まずは各章の物語に集中します。

・章末の写真をご覧ください。

・隠された真相に気づきましたか?

・「そういうことだったのか!!」

だまされる快感をお楽しみください。

※再読ではさらなる驚きを味わえます。

 

読み方を指定してくる小説もなかなか見ないけど、この本はだまされる本ですよ、ってもう言っちゃってるのがすごい。

ミステリの中には、本編の前に”犯人を見破ってみろよ”という旨の読者への挑戦状が書いてあるものもあるが、似たようなところだろうか。

事前にだまされますよと言われれば、そりゃあだまされないように注意して読みますよ。怪しい言い回しなんかを気に留めながら、これは何かの伏線なのかなとか色んな想像を巡らせて、絶対に作者の思い通りにはならんぞと頑張るわけだ。

 

まあ、結果的に、完全にだまされたよね。 

 

というかだまされない人いるのこれ。そりゃそう読むよ普通。ズルくね!?

そういうレベルのだまされ方をする。

 

だまされすぎて読み終わった瞬間の感想は、「え、どういうこと?」だった。わけわからん状態になったわけだね。

少しさかのぼって読み返して、まさに帯にあったように「そういうことだったのか!」と理解して、くっそーーーと悔しくなり、粗探しを初めて結果的に2回目を読んでいる。そういうトリックだ。

 

はい、そのまんまなんだが、

だまされる快感を楽しみたい方にオススメです。

 

いけない

いけない

 

 

 

 

ここからはミステリ手法的なネタバレがあるため、まっさらな状態で読みたい人は画面を閉じてほしい。

 

 

 

使われている手法はズバリ、ミスリードだ。

説明するまでもないかもしれないが、ミスリードとは読んで字のごとく、読者を間違った方向へ読み進めさせる書き方である。

例えば・・・

彼は私のか細い薬指に大きな宝石のついた指輪を嵌めながら「結婚してください」といいました。私はこみ上げる涙を堪えながら「もちろん」と答えました。

という文章を読んだら普通は、主人公の女の人が彼氏に告白された情景を思い浮かべルはずだ。

でも後々で主人公は実は男のおっさんでした。いつ女性って書きましたか?という感じでどんでん返しをするのだ。

 

私はこのミスリードを駆使した作品を読むたびに、ズルいなあと釈然としない気持ちになると同時に、見抜けなかった自分が悪いとも思う。

だから文章の粗探しをするのだが、うまいことできてるんだなこれが。

破綻がないようにしっかりと書かれている。

スリードで読者を騙すのは簡単そうなのだが、このストーリー上で破綻や矛盾がないように書く技術にはいつも感嘆せずにはいられないのである。